2024.7.29
「2歳児クラスの「コンセプト」~私達が大切にしたい“2歳児らしさ”~」
家庭支援・子育て支援のより一層の充実を図るために始めた「2歳児クラス」は令和6年度で8年目を迎えました。令和2年度の3月に卒園した2歳児クラスの1期生は、小学校の中学年となり充実した学校生活を送っていることと思います。
今回は7年間の「2歳児クラス」を振り返り、私達が「2歳児クラスを設立させた意図」と、「2歳児らしさを追求する保育の営み」についてお伝えしたいと思います。
私達が2歳児クラスを設立した理由の一つは、年少組から入園してくる3歳児の姿に“ある疑問”を生じるようになったからです。それは、入園前の家庭の中で「2歳児が2歳児らしく過ごすことが出来ているのだろうか…?」といった疑問です。当時、年少児(3歳児)が遊ぶ姿を見ていると…、自分の好きな遊びが見つかり、園内にある遊びの環境(遊具や道具、自然物等)に主体的に関わりながら“喜び”や“楽しさ”といった感情を表現する子がいる一方で、その反対の子どもの姿も目立っていました。また、同時に家庭での生活経験の違いから、食事・排泄・身支度等の経験値のばらつきが大きく、年少組(3歳児)として入園してくる発達段階(言葉・認知・動作等)の個人差が、年々大きくなっていると感じていました。
そのような姿を目の当たりにしたことにより、私達は今まで以上に2歳児の姿に注目するようになりました。そして、年少児(3歳児)として入園する前の2歳児時代の過ごし方を想像していくうちに…「遊具や道具を使って気が済むまで存分に遊ぶことが出来ているだろうか?(そもそも遊具や道具は2歳児の発達に合っているものだろうか?また、可能な限り制限されない中で自由に触ったり試したりすることは出来ているだろうか?」「戸外で自然に触れる中で、色々な発見を楽しんだりする時間や場所は確保されているだろうか?」「そもそも信頼できる大人(家族)と十分なスキンシップやコミュニケーションが取れているだろうか?」等々、色々な姿を思い描くようになり、「2歳児らしく過ごせているだろうか?」「そもそも2歳児らしさとは何だろうか?」といった様々な思いを抱くようになりました。
そこで、実際に2歳児の子どもの保護者に子育ての様子を尋ねてみると、2歳児らしく過ごさせたいと思っていても、様々な理由から難しさが生じていることが浮かび上がってきました。
例えば…戸外で遊ばせたいと思っても“自由に遊べる場所”が少ないことも一つの要因です。身近に公園は存在するものの、公園は不特定多数の子どもから大人までが利用する場所なので、好きなように、思いのままに、やりたいことを存分に出来ないのが現状です。もっと言えば、同年代の子ども同士のトラブルや大人の目を気にして、常に我が子を“監視”の目で見てしまい、結果として指示制限の言葉ばかり掛けていることも多いようです。
また、兄姉や弟妹の生活が中心となり、ゆっくりと時間をかけて一緒に遊ぶことが出来ず、我慢ばかりをさせてしまうケースもあります。その他、そもそも乳幼児との接し方や遊び方が分からないといった、子育てそのものに悩みを抱えている保護者の姿もあります。
そして極めつけは、大人社会が便利になり過ぎたことにより、子育ての負担を軽減するためのアイテムが増えたことです。代表的なものはスマホやタブレット等を使用して視聴する動画や子ども向けのアプリです。これらのツールとの最初の出会いは、子どもの意思ではなく“大人の都合(大人しくしてほしい場面)”で出会うケースがほとんどだと思います。例えば…泣いたり暴れたりした際、スマホやタブレット等の動画を見せたとたんに泣き止み、大人しくなり、その場が収まることで大人としてはホッとした気持ちになりますが、そのような積み重ねがその後の動画視聴の依存等に繋がり、結果として人や他の環境と関わる機会が減少し、乳幼児期の発達に必要な多様な経験を奪ってしまいかねません。とは言え、直接的な体験が理想ではあるものの、実際のところバーチャルな世界での体験が多くなってしまうのも、昨今の地域をはじめとする子育て環境や複雑な人間関係が交錯する社会等を考えると、致し方がないことかもしれません。
このように、乳幼児期の子育て環境は家庭の力だけでどうにかなる問題ではありません。未来の宝である子ども達のために、社会全体でより良い理想の子育て環境を目指し、互いに協力し合うことは大人達の使命であり責任だと思います。そこで幼稚園としてもそのような一端を担うことが、幼児教育を実践する私達の役割であることを再認識し、幼稚園が備え持つ機能や環境を活かした「2歳児クラス」を設立することにしました。
私達が感じた年少児(3歳児)の違和感を念頭に置きながら、「2歳児クラス」を設立するにあたって主に大切にしたことは、2歳児が2歳児時代を2歳児らしく過ごせるための「安心できる大人の存在」「ゆったりとした時間」「充実した遊び環境」です。
1つ目の「安心できる大人の存在」としては、専門性を兼ね備えた保育者のことを指します。園生活に対して安心感を抱き、自分の思いを自由に表現できるように、一人ひとりの子どもに常に優しく温かな眼差しを向ける存在でありたいと考えました。また、2歳児の心持ちと行動に対して先ずは肯定的に“受け止め”、気持ちに寄り添い、一緒に共感し、その上で“間”を大切にしながら丁寧に“切り返す”関わりを心掛け、一人ひとりの発達段階に合わせた言葉掛け等をしていくことも意識しています。大人から見える“イヤイヤ”や“イタズラ”は、子どもにとっては大切な“自己主張”や“好奇心”として捉えることが大切だと思っています。
2つ目の「ゆったりとした時間」は、可能な限り時間を気にせず興味関心の赴くままに過ごして欲しいという願いを込めています。好奇心旺盛な2歳の時期に、「見る」「聞く」「嗅ぐ」「触る」「感じる」等の五感を使った直接的な体験を重ねていく経験は、その後の様々な発達において欠かすことのできない基礎となるはずです。「早く」「急いで」等のせわしない生活を送ったり、「ダメ」「○○しなさい」等の制限や指示ばかりするのではなく、見守り、待つことで、自分で考え、自分で気付く力を育み、ゆったりとした時間と心持ちで過ごすことで、自分の力で世界を切り拓いていく、ゆとりある時間を保障していきたいと思っています。
3つ目の「充実した遊び環境」は、知的好奇心を擽るために、2歳児の発達に合わせた遊具や道具を用意し、自分のやりたいタイミングに合わせて選ぶことが出来るような環境の充実を図ることです。また、園庭の自然に触れる時間を毎日確保することで、「土」「砂」「水」「葉」等の自然が遊びをより豊かなものにしてくれます。色々な環境に向き合うことで遊び方も変化し、同時に遊びを通して知識や技能が身に付き、更に遊びたい欲求から意欲が沸き起こり、遊んだ経験が自信に繋がります。楽しい遊びを支えるための環境について常に試行錯誤し、2歳児の子ども達にとって必要な経験が得られるような遊びの環境を模索していくことを大切にしたいと考えています。
その他にも、他者に対して憧れの気持ちが、個々の心の中に芽生えるようにしていくことを支えたり、大人や友達の行為を真似したり同調したりしながら、「みんなと一緒が楽しい」気持ちを育み、友達の存在に気づき、繋がりを求めて、友達同士の支え合いの中で自我を育んでいくことも大切にしていきたいと思っています。
以上のようなコンセプトで「2歳児クラス」を設立し、現在も不思議で魅力的な2歳児達に日々向き合いながら、「2歳児らしい生活や遊び」を追い求め続けています。年少児(3歳児)になることを急がせるのではなく、また、年少児(3歳児)にスムーズに進級することだけを求めるのではなく、2歳児時代にしか過ごすことの出来ないゆったりとした生活を中心としながら、2歳児の発達段階に合わせた遊びを思う存分楽しめるような日々を大切にしていきたいと思っています…。
アーカイブ
- 2024.07 (1)