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園長の気まぐれ日記

DIARY

2024.7.29

「2歳児クラスの「コンセプト」~私達が大切にしたい“2歳児らしさ”~」

家庭支援・子育て支援のより一層の充実を図るために始めた「2歳児クラス」は令和6年度で8年目を迎えました。令和2年度の3月に卒園した2歳児クラスの1期生は、小学校の中学年となり充実した学校生活を送っていることと思います。

今回は7年間の「2歳児クラス」を振り返り、私達が「2歳児クラスを設立させた意図」と、「2歳児らしさを追求する保育の営み」についてお伝えしたいと思います。

私達が2歳児クラスを設立した理由の一つは、年少組から入園してくる3歳児の姿に“ある疑問”を生じるようになったからです。それは、入園前の家庭の中で「2歳児が2歳児らしく過ごすことが出来ているのだろうか…?」といった疑問です。当時、年少児(3歳児)が遊ぶ姿を見ていると…、自分の好きな遊びが見つかり、園内にある遊びの環境(遊具や道具、自然物等)に主体的に関わりながら“喜び”や“楽しさ”といった感情を表現する子がいる一方で、その反対の子どもの姿も目立っていました。また、同時に家庭での生活経験の違いから、食事・排泄・身支度等の経験値のばらつきが大きく、年少組(3歳児)として入園してくる発達段階(言葉・認知・動作等)の個人差が、年々大きくなっていると感じていました。

そのような姿を目の当たりにしたことにより、私達は今まで以上に2歳児の姿に注目するようになりました。そして、年少児(3歳児)として入園する前の2歳児時代の過ごし方を想像していくうちに…「遊具や道具を使って気が済むまで存分に遊ぶことが出来ているだろうか?(そもそも遊具や道具は2歳児の発達に合っているものだろうか?また、可能な限り制限されない中で自由に触ったり試したりすることは出来ているだろうか?」「戸外で自然に触れる中で、色々な発見を楽しんだりする時間や場所は確保されているだろうか?」「そもそも信頼できる大人(家族)と十分なスキンシップやコミュニケーションが取れているだろうか?」等々、色々な姿を思い描くようになり、「2歳児らしく過ごせているだろうか?」「そもそも2歳児らしさとは何だろうか?」といった様々な思いを抱くようになりました。

そこで、実際に2歳児の子どもの保護者に子育ての様子を尋ねてみると、2歳児らしく過ごさせたいと思っていても、様々な理由から難しさが生じていることが浮かび上がってきました。

例えば…戸外で遊ばせたいと思っても“自由に遊べる場所”が少ないことも一つの要因です。身近に公園は存在するものの、公園は不特定多数の子どもから大人までが利用する場所なので、好きなように、思いのままに、やりたいことを存分に出来ないのが現状です。もっと言えば、同年代の子ども同士のトラブルや大人の目を気にして、常に我が子を“監視”の目で見てしまい、結果として指示制限の言葉ばかり掛けていることも多いようです。

また、兄姉や弟妹の生活が中心となり、ゆっくりと時間をかけて一緒に遊ぶことが出来ず、我慢ばかりをさせてしまうケースもあります。その他、そもそも乳幼児との接し方や遊び方が分からないといった、子育てそのものに悩みを抱えている保護者の姿もあります。

そして極めつけは、大人社会が便利になり過ぎたことにより、子育ての負担を軽減するためのアイテムが増えたことです。代表的なものはスマホやタブレット等を使用して視聴する動画や子ども向けのアプリです。これらのツールとの最初の出会いは、子どもの意思ではなく“大人の都合(大人しくしてほしい場面)”で出会うケースがほとんどだと思います。例えば…泣いたり暴れたりした際、スマホやタブレット等の動画を見せたとたんに泣き止み、大人しくなり、その場が収まることで大人としてはホッとした気持ちになりますが、そのような積み重ねがその後の動画視聴の依存等に繋がり、結果として人や他の環境と関わる機会が減少し、乳幼児期の発達に必要な多様な経験を奪ってしまいかねません。とは言え、直接的な体験が理想ではあるものの、実際のところバーチャルな世界での体験が多くなってしまうのも、昨今の地域をはじめとする子育て環境や複雑な人間関係が交錯する社会等を考えると、致し方がないことかもしれません。

このように、乳幼児期の子育て環境は家庭の力だけでどうにかなる問題ではありません。未来の宝である子ども達のために、社会全体でより良い理想の子育て環境を目指し、互いに協力し合うことは大人達の使命であり責任だと思います。そこで幼稚園としてもそのような一端を担うことが、幼児教育を実践する私達の役割であることを再認識し、幼稚園が備え持つ機能や環境を活かした「2歳児クラス」を設立することにしました。

 

私達が感じた年少児(3歳児)の違和感を念頭に置きながら、「2歳児クラス」を設立するにあたって主に大切にしたことは、2歳児が2歳児時代を2歳児らしく過ごせるための「安心できる大人の存在」「ゆったりとした時間」「充実した遊び環境」です。

 

1つ目の「安心できる大人の存在」としては、専門性を兼ね備えた保育者のことを指します。園生活に対して安心感を抱き、自分の思いを自由に表現できるように、一人ひとりの子どもに常に優しく温かな眼差しを向ける存在でありたいと考えました。また、2歳児の心持ちと行動に対して先ずは肯定的に“受け止め”、気持ちに寄り添い、一緒に共感し、その上で“間”を大切にしながら丁寧に“切り返す”関わりを心掛け、一人ひとりの発達段階に合わせた言葉掛け等をしていくことも意識しています。大人から見える“イヤイヤ”や“イタズラ”は、子どもにとっては大切な“自己主張”や“好奇心”として捉えることが大切だと思っています。

2つ目の「ゆったりとした時間」は、可能な限り時間を気にせず興味関心の赴くままに過ごして欲しいという願いを込めています。好奇心旺盛な2歳の時期に、「見る」「聞く」「嗅ぐ」「触る」「感じる」等の五感を使った直接的な体験を重ねていく経験は、その後の様々な発達において欠かすことのできない基礎となるはずです。「早く」「急いで」等のせわしない生活を送ったり、「ダメ」「○○しなさい」等の制限や指示ばかりするのではなく、見守り、待つことで、自分で考え、自分で気付く力を育み、ゆったりとした時間と心持ちで過ごすことで、自分の力で世界を切り拓いていく、ゆとりある時間を保障していきたいと思っています。

3つ目の「充実した遊び環境」は、知的好奇心を擽るために、2歳児の発達に合わせた遊具や道具を用意し、自分のやりたいタイミングに合わせて選ぶことが出来るような環境の充実を図ることです。また、園庭の自然に触れる時間を毎日確保することで、「土」「砂」「水」「葉」等の自然が遊びをより豊かなものにしてくれます。色々な環境に向き合うことで遊び方も変化し、同時に遊びを通して知識や技能が身に付き、更に遊びたい欲求から意欲が沸き起こり、遊んだ経験が自信に繋がります。楽しい遊びを支えるための環境について常に試行錯誤し、2歳児の子ども達にとって必要な経験が得られるような遊びの環境を模索していくことを大切にしたいと考えています。

その他にも、他者に対して憧れの気持ちが、個々の心の中に芽生えるようにしていくことを支えたり、大人や友達の行為を真似したり同調したりしながら、「みんなと一緒が楽しい」気持ちを育み、友達の存在に気づき、繋がりを求めて、友達同士の支え合いの中で自我を育んでいくことも大切にしていきたいと思っています。

以上のようなコンセプトで「2歳児クラス」を設立し、現在も不思議で魅力的な2歳児達に日々向き合いながら、「2歳児らしい生活や遊び」を追い求め続けています。年少児(3歳児)になることを急がせるのではなく、また、年少児(3歳児)にスムーズに進級することだけを求めるのではなく、2歳児時代にしか過ごすことの出来ないゆったりとした生活を中心としながら、2歳児の発達段階に合わせた遊びを思う存分楽しめるような日々を大切にしていきたいと思っています…。

2023.1.20

「良質な保育」を保障するためには…

2023年がスタートしました。

本年も日本の未来を支える宝である子ども達にとって、健康で幸多い一年になりますことを、心から願っております。

さて、2022年の年間出生数は国の統計開始以降、初めて80万人を下回る見通しです。

人口減少は経済活動が減少する等、国家の未来に影響を及ぼします。

政府も人口減少に対する課題意識があるため、首相の年頭の記者会見において「異次元の少子化対策に挑戦する」との発言もありました。

では「異次元の少子化対策」とは具体的にどのようなものなのでしょう…

おそらく少子化対策の1つとして取り上げられるであろう保育制度について、私が疑問を抱いている事を下記に述べたいと思います。

<保育制度の問題点>

 

昨年は園バスの置き去り事故、保育士による虐待等、悪い意味で保育現場がクローズアップされる場面が度重なり、子を持つ親として、保育の仕事に従事する者として憤りを感じると共に、なぜあのような惨劇が起きてしまったのか…といった疑問を抱かずにはいられませんでした。

あのような悲しい事故や事件が起きてしまった要因として、園の安全管理体制、保育者としての専門性が問われるのは当然ですが、私はそれ以前に我が国の保育制度に問題があると考えます。

現在の保育現場の最大の課題は「保育者不足」です。全国各地の保育施設では必要な保育者の人数を満たすために求人を出し、保育者の採用に尽力していますが、「求人数に対して応募数が同様」「応募無し」等が数多く見受けられる現状です。

この問題の背景として政府が推進してきた「行き過ぎた待機児童対策」が挙げられます。

2016年に保育園への入所選考で落ちた母親がブログに投稿した「保育園落ちた日本死ね!」を皮切りに、政府はあらゆる手段を用いながら保育の受け皿の定員を増やしてきました。

その結果として、現在はほとんどの自治体で「待機児童問題」が解消されつつありますが、保育の受け皿の定員を増やしてきた代償として「保育者不足」の問題が浮上し、ただでさえ保育者を目指す学生が減少している状況に追い打ちをかける要因となっています。

日本の保育制度における保育士の配置基準(保育士1人が保育できる人数)は「0歳児⇒3(子ども):1(保育士)」「1・2歳児⇒6:1」「3歳児⇒20:1」「4歳児以上⇒30:1」と定められています。

しかしながら、このような配置基準では当然ですが良質な保育を営むことは困難です。(例えば…6人の1歳児を1人の保育者だけで遊び、食事、排泄、着替え等々の保育を行うことは不可能です。)

仮にこの配置基準で無理やり保育を行うとすれば、安全面を重要視するあまり監視員としての役目を果たすことが中心となり、結果として子どもに指示や制限の言葉を多用し、言うことを聞かせる保育、言うことを聞かないと強い働きかけによって圧力かけるといった「不適切保育」をせざるを得なくなり、一緒に遊びを楽しみながら子どもの内面を読み取り、その子らしさを大切にした子ども達一人ひとりの心持ちに寄り添う温かな保育を営むことは残念ながら出来ないでしょう。

当然ですが私達はそのような「不適切保育」を望んでいるのではなく、国が定めた無謀な配置基準の中でも葛藤しながらより良い保育を目指して奮闘してはいるものの、限界を感じているのも正直なところです。

更に「保育者不足」により、ずさんな配置基準すらも満たすことが出来ない保育が日本の各地で行われている現状を考えると、いよいよ改革をしなければならないと切に思います。

ちなみに配置基準は50年以上前から変わっていません。

社会が目まぐるしいスピードで変化し、教育の在り方も見直されているにもかかわらず、未だに昭和(しかも戦後)の基準です。

これでは子ども達が安心して健やかに幸せな園生活を送ることを保障することが出来ず、結果として今後も悲しい事故や事件が後を絶たないでしょう。(そのような現状を踏まえ、当園では国が定めている配置基準以上の保育者を配置するために、教育充実費等の「上乗せ徴収」を独自に設定し、一人ひとりの子どもにより丁寧に関わることが可能となる質の高い保育実践を目指しています。)

本来であれば政治の責任において見直すべき点が多い日本の保育制度ですが、制度の欠陥に目を背け続け、事故や事件が起きるまで改革を実行せず、政治主導で推進してきた「待機児童対策」が結果として保育の質を低下させてしまう結末となってしまい、また社会全体としてもクローズアップされないまま今日に至ってしまいました。

そのような悲劇を繰り返さないためにも今こそ保育制度を見直し、保育の質向上に繋がるような大胆な改革を行って欲しいと切に願います。

また、社会全体が保育制度の現状を知り、子ども達が幸せな人生を過ごすために必要な「良質な保育」を問い直すことが出来るよう、大人達の責任において行動に移していく1年にしたいと思います。

2022.5.20

“ゆたかっ子”を育む新しい園庭

この度、ゴールデンウイークの期間を利用して園庭整備を行い、大枠の形と必要最小限の遊具や道具が完成しました。

しかしながら、園庭環境は整備を終えることがゴール(完成)ではありません。実際に子ども達が園庭環境に慣れ、遊びを通して園庭環境の持つ可能性に触れていくことで、新園舎と同様にこれから長い年月をかけて進化していくことを考えると、園庭の完成は永遠に訪れることはないでしょう。

私達は子どもの持つ潜在的な能力を見極め、これから成長していく姿を思い浮かべながら、新しい園庭での遊びを共に楽しんでいきたいと思います。

<園庭のコンセプト>

園庭全体のコンセプト「一人ひとりにとっての心地良い居場所」です。「好きなこと」が見つかるように多様な環境を作り、「好きなこと」にじっくりと取り組むことが出来るように拠点を分散させ、居場所を沢山作りました。

環境作りにおいては「自然」をテーマにしています。今回整備に使った材料は加工されたものではなく、木材を中心とした自然素材をそのまま活かした物がほとんどです。自然素材は使用すればするほど変化していきます。

例えば、木材は踏んだり触ったりすればするほど摩擦によって表面が剝がれ、長い年月をかけて水分が抜け、硬くて丈夫な素材へと変わっていきます。

子ども達は遊びを通してそのような変化を体験することで、自然の不思議さ面白さを直接感じることでしょう。

一方で自然は私達人間に対して手加減はしてくれません。

木材の例で言えば自然物は変化することが当たり前なため、削れるとささくれができてトゲが刺さることもあります。

子ども達には遊びを通して自然の厳しさを知ってもらうと同時に、危険を回避できる方法を考え、身に付けていくことで自然との向き合い方を学んでいってほしいと思います。

また、人間の力によって作られた公園の遊具等は、人間が扱いやすく危険等がないように施されています。安全のことだけを考えると良いと思いますが、遊び方が分かりやすく決まっている物がほとんどですので、遊び方を考える力や危険を予測し回避する方法を学ぶことに限界があります。

その点今回整備した園庭の遊具は、子ども自身が遊びをアレンジ出来るようなシンプルなデザインとなっており、遊び方によって必要とする危険を予測し回避する方法が異なるため、常に思考を働かせながら遊びを通して危険回避能力を身に付けていくことになるでしょう。

今後も子どもの育ちを第一に考えながら園庭環境を進化させていきたいと思いますので、ご期待ください。

 

  

 

  

 

2022.3.9

「今想うこと…」~幼少期の過ごし方がその後の人生に与える影響~

新型コロナウイルスが私達の生活に影響を与え続けている一方で、ロシアによるウクライナ侵攻について連日報道されるニュースを見る度に心が痛みます。

世界中の国々が経済を発展させ、国家による差はあるものの、技術革新等によって便利な世の中となり、更に人々が世界中を自由に行き来し、インターネットを通して繋がり合うことが出来るグローバルな社会となったことで、人種や文化の垣根を越えて人間同士が幸せな人生を歩めるのが現代社会です。そのような時代になぜ戦争が起こるのでしょうか…。本来助け合うはずの人間同士が、なぜ争わなければならないのでしょうか…。建物等が次々と破壊され、直接的には関係のない人々が命を落としています。更に幼稚園にも着弾し、教員が怪我を負いました。現在も恐怖心を抱きながら、地下シェルターに身を潜めている幼い子ども達のことを想うと胸が痛みます。そして、万が一この状況が日本の札幌で起きていたことを想像すると悲痛な思いです。

人間は一人ひとり感情を持っています。感情は他者と同様なこともあれば異なることもあります。しかしながら、あらゆる感情が全く同じということはあり得ません。例え親子や夫婦であっても異なることがあるでしょう。“感情”と“感情”が異なるため、多かれ少なかれ人と人の衝突が起こります。この度のロシアとウクライナの問題は、専門家ではないので真相は分かりませんが、個人的には感情の相違から生まれた悲しい争いだと思います。

子ども達も園生活の様々な場面において一人ひとり異なる感情を抱きます。そして、感情を思うようにコントロールすることが出来ず、時には友達を傷つけてしまうことも少なくありません。しかしながら子ども達はその度に友達の感情を知り、自分の感情をコントロールしようと葛藤することで、自分自身の感情を変化させ、他者には多様な感情があることを学んでいきます。そのような感情の育ちを支えていく役割と責任は私達大人にあります。喜びや悲しみの感情に対して、優しく包み込むように守ってもらったり受け入れてもらったりした体験の積み重ねから、心の安定強くて逞しい優しい心が育まれていくでしょう。

未来の社会で今回のような惨劇が生まれないよう、園生活や家庭での体験を通して身に付いた、感情表現とコントロールする力を大人になる過程の中で更に磨き上げ、やがて訪れる大人社会の中で互いに助け合いながら幸福な社会を構成する一員として人生を歩んでいくことを心から願います。

子ども達の“心”を育てるのが幼児教育です。その責任の重さを痛感することしか出来ない自分の無力さを感じながらも、未来の社会で同じような争いが起きないよう、目の前の子ども達の心を丁寧に育てる営みに力を注いでいきたい…と改めて痛感しています。

2021.7.21

私達が大切にしたい“子どもを中心とした”認定こども園の在り方について

現在、園舎移転に向けて、順調に新園舎の工事が進んでおります。また、令和4年度からの認定こども園開園に向けて、園としての方針や運営内容等もある程度固まり、こちらも着実に準備が進んでいるところです。そこで今回は、「私達が大切にしたい認定こども園の在り方」について、お伝えしていきたいと思います。

先ず始めに、「札幌ゆたか幼稚園」は今年で創立55周年を迎えました。昭和42年3月に幼稚園としての認可を当時の道知事より受け、創設者である初代園長 丸谷 三寶麿が、“人育ちの原点”である幼児教育を地域に根付かせたいと願い、「学校法人札幌豊学園 札幌ゆたか幼稚園」として運営を営むこととなりました。(当時高校教師の丸谷 三寶麿は、教育の原点に立ち返りたいと考え、高校教師を退職し、幼児教育を豊平の地で営んでいくことを決意しました。)その後55年間に亘り、その時代に求められる子どもを中心とした幼児教育の営みに邁進し、豊平の地に根付いた幼稚園として、令和3年3月には6,423人の卒園児を送り出しました。

このように長年に亘り、現在の場所で幼児教育を営んで参りましたが、この度より一層、質の高い幼児教育を実践していくための環境を求め、悩みに悩んだ結果、「移転」と同時に「幼保連携型認定こども園」へ移行することとなりました。正直なところ、慣れ親しんだ場所を離れる寂しさは今も尽きません。また、幼稚園として長年に亘り幼児教育の実践を積み上げてきたことから、「幼保連携型認定こども園」に移行することへの抵抗感も全くないとは言えません。しかしながら、「良質な環境(園舎・園庭の広さ、遊びや生活の動線等)」を追求していくことと、「社会に求められる子育て支援」への対応に真摯に向き合い、社会的な使命を果たしていくためにも、前向きな心持ちで「認定こども園 札幌ゆたか幼稚園」として再スタートしていく所存であります。

 

そのような“想い”を胸に、来年の4月からは「幼保連携型認定こども園」として開園する予定ですが、制度上の複雑さは否めず、在籍する子ども達は主に「幼稚園在籍(1号)」と「保育所在籍(2・3号)」に分かれることとなります。とは言え、「認定こども園」は制度上、満3歳以上の子ども達全員に幼児教育を行う施設ですので、「幼稚園在籍(1号)」であろうが「保育所在籍(2・3号)」であろうが、幼児教育の内容は変わりません。ちなみに当園では既に「2歳児クラス」を設け、3歳の誕生日を迎える“年度”の子どもを対象に、(在籍上は「子育て支援(3歳の誕生日を迎えるまで)」~「幼稚園(3歳の誕生日を迎えた日から)」)“2歳児らしい”育ちを見据えた幼児教育を行っているので、実質的には4年間幼児教育を営んでいることになります。(※2歳児クラスの「コンセプト」につきましては、前回の記事をご覧ください。)よって、2歳児~5歳児までの4年間に亘って幼児教育を行うことは、「認定こども園」に移行しても変わりません。では、移行することによって、どのような点が移行する前と異なるのでしょうか…?

「幼稚園在籍(1号認定)」と「保育所在籍(2・3号認定)」で大きく異なることは、開所日と時間です。当園の「幼稚園在籍(1号認定)」は、月~金曜日の8時半~14時が基本の教育時間です。また、それ以外の時間として、預かり保育(ホームフレンドサークル)を8時~8時半と14時~18時に行っています。次に、来年4月からの当園の「保育所在籍(2・3号認定)」は、月~土曜日の7時~18時が保育標準時間となり、18時~19時は時間外保育を行うことになります。(保育短時間は8時半~ 16時半です。)制度上このような違いが生じてしまうところが「認定こども園」の“難しさ”でもあります。当園は現在も預かり保育を行っているので、一見あまり変わらないようにも思えますが、「子ども側」と「大人側(保護者)」のそれぞれの視点から考えてみると“複雑さ”が浮かび上がってきます。

「子ども側」の立場になって考えてみると、保護者と離れる時間が長時間となってしまうことを「嬉しい」と感じる子どもは1人もいないのではないかと思います。乳幼児期において、最大の安心基地である保護者の温もりを感じながら生活をする“家庭”は、子ども達が育っていく上で欠かすことの出来ない“居場所”であり、そこで過ごす時間は生涯においてかけがえのないものになると思います。そのようなことを鑑みると、子ども達は保護者から少しの時間だけ離れ、自立の経験を積み重ねながら人と関わるスキルの基礎を身に付けるために、適度な時間を“園”という小さな社会で過ごすことが理想と言えるでしょう。ちなみに、幼稚園の1日の教育時間については、乳幼児期の心身の発達の程度を考慮し、国として「4時間」を標準として定めています。当園の徒歩通園の教育時間を基本として考えてみると、8時半~14時の5時間位を園で生活することになります。自立に向かう多様な体験に全力で向き合うのが幼児の特性でもあることを考えると、子ども自身は自覚していなくても心身の疲れは当然あり、その栄養補給として“家庭”の中で保護者に甘えるといった態度等で要求してくるのも自然の姿と言えると思います。このように、日々保育を営んでいる私達の目線から子ども達の園生活を改めて捉えてみても、1日の園で生活する時間は5時間位が丁度良く、国が定めている教育標準時間は理にかなっていると感じています。しかしながら、現在、当園も保護者をはじめとする社会のニーズに応えるためにも、預かり保育を行っていますが、複雑な想いを抱いている子ども達の姿(「早く帰りたい…」「お母さんに会いたい…」)を目のあたりにすることもあり、正直なところ18時まで保護者と離れて園で過ごすことは、「子ども側」の立場からとするといかがなものなのか…と日々葛藤しています。子どもの「早く迎えに来てほしい…」「みんなと同じ時間に帰りたい…」といった心の想いに、心から応えてあげたいと思いますが、園側だけではどうすることもできない悩みの1つです。

一方で「大人側(保護者)」の立場からすると、「家庭を支えるため」「自分自身の人としての成長のため」「社会に貢献するため」等、様々な理由から仕事等に時間を注ぎ、ひいては「我が子のために…」と考え、一生懸命向き合っていることと思います。これは一人の人間として、そして社会の一員として、人々が幸せで豊かな暮らしを営んでいくために欠かすことの出来ない人間らしい姿だと思います。しかしながら、このような仕事等の営みを、家庭を持ち且つ子育て真最中に両立させることは、決してハードルが低いとは言えません。当然のことながら1日の時間は24時間と決まっているので、仕事等に費やす時間が増えれば増える程、家庭で過ごす時間は減り、自ずと子どもと関わり合う時間も少なくなります。このようにバランスを保つことの難しさは、私自身も子を持つ1人の親として痛感していることです。好き好んで我が子と長時間離れたいと思っている保護者は誰もいないと思います。(リフレッシュ等、一時的に離れたいと思うことは自然なことだと思いますが…。)それでも、「仕事が忙しい…」「子どもが待っているから早く…」等といった葛藤をしながら、長時間子どもを預けている保護者の方の心情を考えると、“複雑さ”を抱かずにはいられません。

 

このように「子ども側」と「大人側(保護者)」のそれぞれの立場から考えてみると、お互いの理想だけを追求することは難しく、頭が痛い問題として日々の生活に追われながら向き合い続けるしかないのも現状かもしれません。ただ1つ言えることは、「子ども側」の想いは年齢が低ければ低いほど、自分自身で上手に発信する力が乏しく、その表現は「大人を困らせる」といった言動を起こす場合もあります。「大人側(保護者)」は悩み等を発散する“術”がある程度備わっていますが、「子ども側」からするとその力もまだまだ乏しく、結局のところ「保護者」に依存することでその場その場を切り抜けていくしかないのかもしれません…。

 長時間子どもが園で過ごす問題は、「子ども側」と「保護者側」のどちらが悪いわけでもありません。これは長時間預けることを可能とした(標準とした)、日本の制度上に問題があると、私自身は長年に亘って感じています。そもそも乳幼児期の子どもを、保護者から一日最大12時間、1週間で最大6日間も離れることを可能とした保育制度は、「子ども側」の立場からするといかがなものかと思わざるを得ないものです。(ちなみに…小学生が利用する児童館の開所時間(延長時間を含む)は学校休業日で8時~19時の11時間です。)このような日本の保育制度は、経済成長を促す「雇用側」や女性の社会進出等の「働き手」に焦点を当てて作られていて、そこには「子ども側」の立場に立った視点が全く考えられていないといっても過言ではありません。しかもそこに追い打ちをかけるように、保育の受け皿を作り過ぎた代償として、「保育者不足」が全国各地で起こり、結果として良質な環境で保育を営むことが困難な園も多くなり、そのしわ寄せは子どもに来ています。国として「子ども側」の立場に立ち、「子ども側」の心持ちの視点を見失うことがないよう、今一度制度の改正や社会の在り方を見直すことが出来るよう、政治家や官僚等の行動に期待したいものです…。(例えば…乳幼児期の子育てをしている人は、遅くても17時位までに我が子を園に迎えに行くことが出来るような働き方を、各職場が構築しなければならない法律を制定し、その分の運営は国費を投入して職場の経営をサポートする。そしてその国費は、現在長時間子どもを預かることによって保育現場に投入されている運営費を調整して財源を確保する等々…とにかく未来の社会を支える“宝”である子どものために、もっと国費をかけて欲しい…日本は教育にかける予算が先進国の中で最低クラスですので…。)

さて、半ば愚痴のような私自身の想いを述べてしまいましたが、それでも私達保育現場としては、「子ども側」と「大人側(保護者)」の両方の想いに可能な限り応えていくために、「認定こども園」に移行する選択をしました。それは園に直接関係する「子ども」「保護者」「職員(保育者)」をはじめ、間接的に関係する「地域の方々」等々、「子ども」を中心に全ての人が幸せであって欲しいと願うからです。その中でも私達が1番忘れてはいけないことは、「誰の」「何のため」の“園”かということです。それは当然、「子ども」の「心身の成長」をサポートするための園です。「子ども」を中心に位置付け、「家庭」「園」「地域」等が互いに協力・連携し合い、子どもが子どもらしくのびのびと園生活を楽しみ、幸せな日々を送ることが出来るような園運営を行っていきたいと考えています。その為には、「子ども」を中心とした生活スタイルを基盤とし、「遊び」や「活動」等をバランス良く計画しながら、乳幼児期の子ども達にとって無理のない時間の中で、保育を営んでいきたいと考えております。それはすなわち、現在の「幼稚園スタイル」を基本とするということです。(「幼稚園スタイル」とは…1週間の中で月~金曜日の5日間、8時半~14時の教育時間の枠の中で保育を計画し、子どもの心身のリフレッシュのためにも夏・冬・春休みを設けることです。

そこで「幼稚園スタイル」を基本とするため、1号認定135人・2号認定18人・3号認定12人とし、「幼稚園在籍(1号認定)」の子どもを中心として考えた定員設定としました。今までと同様にクラス担任制を基本とし、基本の教育時間以外の時間は「保護者対応」「保育カンファレンス(今日の保育の振り返り~翌日以降の保育の計画等)」「行事の計画や準備~振り返り」「保育の質向上のための園内研修」等々に時間を必要とするため、クラス担任は平日の基本の教育時間のみ子どもと直接関わり、保育を営んでいくことになります。(これは現在も同様です。)このように、基本の教育時間に合わせて人員の配置を充実させるため、それ以外の時間や土曜日は必要最低限の配置となり、フリー保育者を中心として保育を営んでいくことになります。その為、主に「保育所在籍(2・3号認定)」の子どもが利用する土曜日や14時以降等の時間は、子どもに負荷をかけ過ぎず、ゆったりとした家庭保育のような雰囲気を大切にしたいと考えておりますが、人員の配置や保育環境は同等の質を担保するのが難しいのも現状です。これは「保育所在籍(2号・3号認定)」の保護者のために、月~土曜日の7時~19時まで開所するよう札幌市より定められていることが、保育の質を保つ難しさの要因の1つとなっています。(そもそも国が定める労働時間は原則1日8時間、1週間で40時間までなので、クラス担任が開所時間全てを受け持つことは不可能です。)よって、職員(保育者)の働く時間や環境を守り、子どもと関わる時間に全力でエネルギーを注げるよう、主任を中心としながらクラス担任とフリー保育者が連携を取り合い、1人ひとりの子ども達に向き合っていきたいと考えています。

このように、「認定こども園」として運営をスタートさせる上で、今まで通りの「札幌ゆたか幼稚園スタイル&ポリシー」を大切にしつつも、就労支援と子育て支援のニーズに応えていくために、可能な限りの体制を整えていきたいと思っています。その際、保護者の皆様にも当園が「札幌ゆたか幼稚園スタイル」の「認定こども園」であることをご理解いただき、やむを得ず教育時間の5時間を超えて子どもを預ける場合、子どもの心身の育ちを第一に考え、必要最低限の時間のみ預けていただくようご協力をお願いしたいと考えています。

大人側や制度上の都合により、子ども達の在籍を分けざるを得ないのが日本の幼児教育施設の現状ではありますが、子ども側に立って考えてみると在籍等の問題は全く関係なく、ただただ「先生や友達と思いきり遊びたい…」そして園である程度過ごした後は、「大好きなお母さんお父さんと一緒にいたい…」と願っていると思います。社会の中心に子どもを位置付けながら「家庭≒園≒地域」が互いに繋がり合い、生き生きとした子どもらしい姿を支えていくことを念頭に置き、「札幌ゆたか幼稚園らしい認定こども園」として令和4年度より再スタートしたいと思っています。なぜなら、私達の1番の使命は、「乳幼児期の心身の健やかな成長を、子ども側の“立場”と“視点”に立って支えていくこと」だからです…。

2020.12.17

新園舎イメージスケッチ完成

現在当園は「幼稚園」として学校運営をしていますが、令和4年度より「認定こども園」として幼児教育・保育を行う施設として生まれ変わることになりました。

今後も地域社会との交流及び連携を図りながら、地域の子育て支援の拠点となり、社会全体で子どもを育てる営みに理解を得られるよう、地域の皆様とのかかわり合い、繋がり合いを大切にする運営に努めていきたいと思っています。

 

現段階での園舎の「イメージスケッチ」をご紹介させていただきます。

 

 

“ゆたかなこころを育てる”をコンセプトに、“自分らしく周囲の人と共に生きる喜びを見いだせるよう、子ども達一人ひとりの心の根っこを支える”をモットーとした保育をより一層充実できるよう、子ども達が様々な“ヒト”“モノ”“コト”とかかわり合い、五感を刺激しながら遊び込める楽しい豊かな遊び場としての環境を計画しているところです。

 

新園舎の設計には全国の幼稚園・保育所・認定こども園の園舎や園庭の設計に数多く携わり、“子どもの遊び環境”について専門性が高い設計士さんにお願いしました。

建築家としての作品を残すのではなく、子ども達や教職員が生活し易く、何より遊びが充実出来る動線や空間を意識する等、大切にしたい“子ども観”“保育の営み”に理解を示した上で、丁寧な設計をされる設計士さんです。

 

なお、このイメージスケッチは現段階での構想で、園舎の色合いはこれから計画していきますので、楽しみにしていただきたいと思います。

また、園庭につきましては、園舎完成移転後に時間をかけて少しずつ作り上げていく予定です。

 

お気軽にご見学ください

ご見学やご相談は、随時受付中です。